君にまっすぐ
あかりは車オタクだ。
もう物心ついた時から、既に車の虜だった。
普通の乗用車もスポーツカータイプの高級車もパトカーや救急車などの働く車たちもどれも大好きだ。
電車や飛行機などの乗り物も好きではあるが、やはり道路を走る車たちに惹かれる。
形やサイズ感、魅力は色々とあるが、これだ!という理由は特になく、ただ好きなモノは好きという感情であり、あかり自身もうまく説明できないほどだ。

好きが高じて、将来は車メーカーに就職したいと大学では工学部に入学した。
だが、大学に入り免許を取得し自分で運転するようになり、また機械科を専攻し学ぶ中で気付いた。
車に乗ることや作ることが好きなのではなく、見ることが好きなのだと。
もちろん、車販売会社なども視野に入れて就職活動を行なったが、特定のメーカーではなくとにかく色々な車を見たいという欲求から、一般車から超高級車まで受け入れるこのビルの駐車場に目をつけ、がむしゃらに就職活動を頑張ったという経緯がある。

そんな私情を内心抱え、このB.C.メンテナンスに入社して早2年。
初めの1年は一般車向け駐車場の管理人だった。
1年間の真摯な仕事ぶりを評価されたのか、2年目からはアッパークラス担当になった。
初めの1年はタイミングが中々合わず、いつも車庫に隠れていた憧れの車たちを配置換えによって身近で見ることが出来て、あかりは幸せを感じながらますます意欲的に働いている。

そんな高級車の中で一番なのが孝俊の乗るオルディだ。
スマートでハンサムな顔つきに、身体と一体になるように作られた低めのボディ、よく磨かれツヤがあり気品を感じる漆黒の黒、そして胸に響くようなエンジンの重低音。
何もがあかりのツボを捉えている。
オルディへのあかりへの想いは俳優やアイドルに憧れ恋心を抱くような感情だ。
そんなオルディをあかりは親しみを込めて、内心『オルディさん♡』と呼んでいる。

先日、孝俊に乗せてもらったアヴァンは例えるならハリウッド女優のようなものだ。
まずお目にかかれるはずのないものが目の前に現れ、ついつい興奮してしまったのは仕方がない。
普段愛してやまないオルディさんには悪いなと思いながらも、ついつい先日乗車したアヴァンのことを反芻してしまう。
オルディさんはそのかっこよさを引き立たせる黒だが、アヴァンは気高さを感じる真っ赤なボディだった。
実物を直視して、到底自分自身は顔も体もハリウッド女優になれはしないのに、どうしても憧れてしまうような恐ろしいほどの魅力を持った車だった。
あかりが『アヴァン様』と呼んでしまうのも仕方がないほどに。
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