君にまっすぐ
「はぁ。」

あかりを見送り、一人車に乗ると息をついた。
最後、あかりと話した内容は孝俊の胸にズシっときた。
孝俊はこれまで女性関係にかぎらず、どんな人間関係に置いても壁を作ってきた。
例外は幼なじみである親友と元執事の田中ぐらいか。
それを本当に孝俊は望んでいるのかとあかりは聞いてきた。
孝俊自身が望んでいる関係、望んできた関係だ。
でも、あけすけなあかりを前に孝俊も自然と素が引き出された。
そして、それはとても心地良いものだった。
だから、あかりに聞かれて自分自身でも少し疑問に思ってしまった。
明確な答えが出せずに話を流して終わらせた。

これまで壁を作ってきたのは、誰にも自分自身に踏み込ませたくなかったからだと思っていた。
しかし、踏み込ませてもいいと思う相手に出会ってなかっただけかもしれないと気付いた。
あかりは踏み込ませてもいいと思うよりも前に入り込んでしまっていたような気がするが。
そう考えると女性たちとの軽い付き合いができなくなったのもなんとなく納得できる。
素が出せる心地良い関係を味わうと感情の通わない軽い付き合いに居心地の悪さを感じて当たり前だ。

あかりとも軽い付き合いをしたいと思って近づいたが、そんな関係で終わらせるのは嫌だと思った。
だから、友達になろうと提案した。
とにかくいろいろな話がしたいと思った。
あかりも友達なら受け入れてくれるだろうと思った。
あかりは何でも思ったことをしゃべってしまうと言っていたが、立場の違いも気にせず対等な人間として相手に指摘できる度胸の良さに清々しさを感じた。
指摘する内容も本質を突いてきた。
相手をよく見ていないとできないことだ。
それに流すことなく相手に指摘するのは相手を想うからだ。
どうでもいい相手に指摘しても面倒なだけだ。
だから、相手の為を思い発言できるあかりは心根の優しい人間なのだと思う。
そして何より信頼できる人間だと思った。
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