君にまっすぐ
昼からシフトに入っている同僚の井上が通勤時に転んでしまい救護室で手当をしているため、お昼休憩に入るのを遅らせていたあかりはエレベーターから孝俊が降りてくるのを見つけた。
「え?あかり、まだいたんだ…。」
「あ!孝俊さん、この時間に珍しいですね。って、あ!も、申し訳ございません。」
どこか気まずい表情を見せている孝俊に続いて現れた麗子の姿にあかりは驚き、慌てて笑顔をしまい込み深々とお辞儀をする。
「すぐにお車の用意をいたしますので、少々お待ちください。」
あかりは足早に作業板に向かい、車の準備をしている。
孝俊とあかりの様子を意味ありげに麗子は眺めていたが、特に何も言わなかった。
「森山田、悪かったな。血は結構出たけど傷は大したことないしもう大丈夫だから、休憩に入ってくれ。」
救護室から戻ってきた井上があかりに声をかけるが、あかりはぼんやりとしている。
「おい、森山田!」
その声にハッとしたようにあかりは慌てて井上を仰ぎ見る。
「はい!何でしょう?」
「だから、もう大丈夫だから休憩入れって。」
「え?あ、ケガ大丈夫でした?」
「だから、大丈夫だって言ってんだろ!なんだ、お前調子悪いのか?ぼんやりしているなんて珍しいぞ。」
2年先輩である井上に言われ、なんでもありませんと返し慌てて事務所に戻る。
お昼は節約のためにいつも弁当を持参しているが、今日は広げた弁当を前に箸が止まったままだ。
「森山田さん、どうかしましたか?箸が進んでいないようですが。」
室長席でパソコンに向かっていた田中があかりに声をかける。
「いえ、なんでもありません。」
「そう言われましても、もう10分ほどその状態でしたよ?武堂専務と何かありましたか?」
「え?なんで…?」
「先ほど武堂専務が出て行かれたのでしょう?つい1時間前まではいつもの森山田さんでしたから、彼と何かあったのかと考えるのが妥当かと。」
「いえ、武堂専務と何かあったわけじゃないんです。ただ…。」
「ただ?」
「最近、女性とのお付き合いはしていないとおっしゃっていたのに、女性とご一緒だったのでちょっと気になってしまって。」
「なるほど。いつもは森山田さんのお昼休憩の時間ですしね。」
「お昼休憩…ということは、私がいない日は女性と一緒のこともあったんですか?そういう付き合いはやめたと言われてたのに。」
「いえいえ、ここしばらくは全くお見かけしていませんよ。」
「あ、ということは、本気…ということなんですかね?」
「本気、ですか。」
「そういう付き合いはやめていて、女性と一緒ということはそういうことではないですか?仕事関係なら社用車で秘書の方もご一緒でしょうし。」
「私は女性の姿を確認していないのですが、どんな女性でした?」
「えっと、髪は黒で肩ぐらいまでのストレート。とても整った顔立ちで、意志の強そうな目をしていらっしゃいました。あ、でもこれまでの女性のように腕を組んだりはしていなくて、どこか距離感があったような…?」
「あぁ、それはきっと花島麗子さんですね。」
「花島さん?」
田中は席を立つとあかりの机の横に立つ。
どんな関係の女性だろうかとただの興味にしては少し暗い表情で見上げてくるあかりの瞳をじっと見て、真実を告げる。
「婚約者です。」
「え?婚約者?え?誰の?」
「武堂専務の婚約者、花島麗子さんです。」
「武堂専務…え?孝俊さんの?」
あかりは心底驚いたという顔で目も口も開いたまま田中を見つめた。
その後田中と言葉を交わしたが、ぼんやりとしていてあかりは内容を覚えていなかった。
お弁当はその後も喉を通らず、そのままの状態で包みを戻すしかなかった。
「え?あかり、まだいたんだ…。」
「あ!孝俊さん、この時間に珍しいですね。って、あ!も、申し訳ございません。」
どこか気まずい表情を見せている孝俊に続いて現れた麗子の姿にあかりは驚き、慌てて笑顔をしまい込み深々とお辞儀をする。
「すぐにお車の用意をいたしますので、少々お待ちください。」
あかりは足早に作業板に向かい、車の準備をしている。
孝俊とあかりの様子を意味ありげに麗子は眺めていたが、特に何も言わなかった。
「森山田、悪かったな。血は結構出たけど傷は大したことないしもう大丈夫だから、休憩に入ってくれ。」
救護室から戻ってきた井上があかりに声をかけるが、あかりはぼんやりとしている。
「おい、森山田!」
その声にハッとしたようにあかりは慌てて井上を仰ぎ見る。
「はい!何でしょう?」
「だから、もう大丈夫だから休憩入れって。」
「え?あ、ケガ大丈夫でした?」
「だから、大丈夫だって言ってんだろ!なんだ、お前調子悪いのか?ぼんやりしているなんて珍しいぞ。」
2年先輩である井上に言われ、なんでもありませんと返し慌てて事務所に戻る。
お昼は節約のためにいつも弁当を持参しているが、今日は広げた弁当を前に箸が止まったままだ。
「森山田さん、どうかしましたか?箸が進んでいないようですが。」
室長席でパソコンに向かっていた田中があかりに声をかける。
「いえ、なんでもありません。」
「そう言われましても、もう10分ほどその状態でしたよ?武堂専務と何かありましたか?」
「え?なんで…?」
「先ほど武堂専務が出て行かれたのでしょう?つい1時間前まではいつもの森山田さんでしたから、彼と何かあったのかと考えるのが妥当かと。」
「いえ、武堂専務と何かあったわけじゃないんです。ただ…。」
「ただ?」
「最近、女性とのお付き合いはしていないとおっしゃっていたのに、女性とご一緒だったのでちょっと気になってしまって。」
「なるほど。いつもは森山田さんのお昼休憩の時間ですしね。」
「お昼休憩…ということは、私がいない日は女性と一緒のこともあったんですか?そういう付き合いはやめたと言われてたのに。」
「いえいえ、ここしばらくは全くお見かけしていませんよ。」
「あ、ということは、本気…ということなんですかね?」
「本気、ですか。」
「そういう付き合いはやめていて、女性と一緒ということはそういうことではないですか?仕事関係なら社用車で秘書の方もご一緒でしょうし。」
「私は女性の姿を確認していないのですが、どんな女性でした?」
「えっと、髪は黒で肩ぐらいまでのストレート。とても整った顔立ちで、意志の強そうな目をしていらっしゃいました。あ、でもこれまでの女性のように腕を組んだりはしていなくて、どこか距離感があったような…?」
「あぁ、それはきっと花島麗子さんですね。」
「花島さん?」
田中は席を立つとあかりの机の横に立つ。
どんな関係の女性だろうかとただの興味にしては少し暗い表情で見上げてくるあかりの瞳をじっと見て、真実を告げる。
「婚約者です。」
「え?婚約者?え?誰の?」
「武堂専務の婚約者、花島麗子さんです。」
「武堂専務…え?孝俊さんの?」
あかりは心底驚いたという顔で目も口も開いたまま田中を見つめた。
その後田中と言葉を交わしたが、ぼんやりとしていてあかりは内容を覚えていなかった。
お弁当はその後も喉を通らず、そのままの状態で包みを戻すしかなかった。