君にまっすぐ
あれから2人でドライブや食事に行くことはなくなった。
むしろ、業務上の挨拶ぐらいしか交わしていない。
それまではスケジュールを何とか調整してあかりとの時間をひねり出していた孝俊はあかりの勤務時間内に退社することはなくなったし、朝も次々にやってくる客の相手をするあかりを引き止めて話し込むわけにはいかなかった。
それに、何をどう話せばいいのかも孝俊には難しいことだった。
あれほどドライブ中には話が尽きることなく楽しい時間を過ごしていたはずなのに、何を話題にしていたかさえわからなくなりそうなほどだ。
対するあかりも笑顔は見せてくれるけれど、あのキラッキラのメロメロ笑顔をすることはなくなった。
嬉しそうに車を盗み見しているが、以前ほど思い入れがあるようには見えなかった。
孝俊があかりを幻滅させてしまったことで、孝俊の乗るオルディの印象も悪くなったのかもしれないと自嘲する。
「おやおや、調子の悪そうな顔をしていますね。」
オフィスへと向かうエレベーターを待っている時に斜め後ろから掛けられた声にキッと鋭い目を向ける。
「おい、田中。今までどこに隠れていやがった。呼び出しても来やしねぇ。」
「私のボスはあなたのお父様ですから。坊っちゃんのいうことを聞くのは業務命令ではありませんので。」
「お前、なぜ話した?」
「何をです?」
「婚約のことだ。」
「あぁ、森山田さんにですか?いずれわかることでしょう?」
「それでも、まだ公に発表していることでもないし、お前が勝手に話すことではないだろう。そういえば、お前は俺と昔からの知り合いだということも勝手に話していたよな。お前は俺とあいつの仲を引っ掻き回して楽しんでいるのかもしれないが、おかげでまともに会話すらできなくなった。どうしてくれるんだ。」
「それのどこに問題がありますか?」
「何だと!?」
「坊っちゃんに婚約者がいるのは事実であり、発表されるのも数カ月後の予定ですよね。今知られようが後で知られようが、森山田さんの行動は同じだったのではないですか?むしろ長期間黙っているよりも今知られたからこそ、挨拶ぐらいはできているのかもしれませんよ?」
「なっ…。」
「それに確か坊っちゃんと森山田さんは友人関係にあるのですよね?それならば客観的に見ても森山田さんの行動は正しいものですよ。」
「いや、でも…。」
「坊っちゃんは森山田さんとどうなりたいのですか。」
「ずっと友人でいたい。ただそれだけだ。」
「友人、ですか。」
「そうだ。俺は彼女といるとリラックスできるし何より楽しいからな。」
「奥様となるはずの麗子様とはリラックスして楽しめないから森山田さんと楽しみたい、そういうことですか。それはまるで愛人にしたいと言っているように聞こえますね。」
「お前!俺はそんなこと言っていないだろう!それに彼女を貶めるような発言はやめろ。彼女には愛人なんて似合わない。」
「ええ、だからこそ坊っちゃんは森山田さんのことを敢えて《友人》という言葉でごまかしているのでしょう?」
「ごまかしているとはどういうことだ。」
「坊っちゃん、仮に今後も森山田さんと食事に行ったりする友人関係を続けられたとしても彼女に恋人ができたり結婚したらどうするおつもりです?その時も彼女ならば、誤解されたくないからと2人きりでお会いすることはなくなるでしょうね。」
むしろ、業務上の挨拶ぐらいしか交わしていない。
それまではスケジュールを何とか調整してあかりとの時間をひねり出していた孝俊はあかりの勤務時間内に退社することはなくなったし、朝も次々にやってくる客の相手をするあかりを引き止めて話し込むわけにはいかなかった。
それに、何をどう話せばいいのかも孝俊には難しいことだった。
あれほどドライブ中には話が尽きることなく楽しい時間を過ごしていたはずなのに、何を話題にしていたかさえわからなくなりそうなほどだ。
対するあかりも笑顔は見せてくれるけれど、あのキラッキラのメロメロ笑顔をすることはなくなった。
嬉しそうに車を盗み見しているが、以前ほど思い入れがあるようには見えなかった。
孝俊があかりを幻滅させてしまったことで、孝俊の乗るオルディの印象も悪くなったのかもしれないと自嘲する。
「おやおや、調子の悪そうな顔をしていますね。」
オフィスへと向かうエレベーターを待っている時に斜め後ろから掛けられた声にキッと鋭い目を向ける。
「おい、田中。今までどこに隠れていやがった。呼び出しても来やしねぇ。」
「私のボスはあなたのお父様ですから。坊っちゃんのいうことを聞くのは業務命令ではありませんので。」
「お前、なぜ話した?」
「何をです?」
「婚約のことだ。」
「あぁ、森山田さんにですか?いずれわかることでしょう?」
「それでも、まだ公に発表していることでもないし、お前が勝手に話すことではないだろう。そういえば、お前は俺と昔からの知り合いだということも勝手に話していたよな。お前は俺とあいつの仲を引っ掻き回して楽しんでいるのかもしれないが、おかげでまともに会話すらできなくなった。どうしてくれるんだ。」
「それのどこに問題がありますか?」
「何だと!?」
「坊っちゃんに婚約者がいるのは事実であり、発表されるのも数カ月後の予定ですよね。今知られようが後で知られようが、森山田さんの行動は同じだったのではないですか?むしろ長期間黙っているよりも今知られたからこそ、挨拶ぐらいはできているのかもしれませんよ?」
「なっ…。」
「それに確か坊っちゃんと森山田さんは友人関係にあるのですよね?それならば客観的に見ても森山田さんの行動は正しいものですよ。」
「いや、でも…。」
「坊っちゃんは森山田さんとどうなりたいのですか。」
「ずっと友人でいたい。ただそれだけだ。」
「友人、ですか。」
「そうだ。俺は彼女といるとリラックスできるし何より楽しいからな。」
「奥様となるはずの麗子様とはリラックスして楽しめないから森山田さんと楽しみたい、そういうことですか。それはまるで愛人にしたいと言っているように聞こえますね。」
「お前!俺はそんなこと言っていないだろう!それに彼女を貶めるような発言はやめろ。彼女には愛人なんて似合わない。」
「ええ、だからこそ坊っちゃんは森山田さんのことを敢えて《友人》という言葉でごまかしているのでしょう?」
「ごまかしているとはどういうことだ。」
「坊っちゃん、仮に今後も森山田さんと食事に行ったりする友人関係を続けられたとしても彼女に恋人ができたり結婚したらどうするおつもりです?その時も彼女ならば、誤解されたくないからと2人きりでお会いすることはなくなるでしょうね。」