君にまっすぐ
あかりは孝俊に婚約者がいることがわかって以来、大好きなオルディを見ても気持ちが弾まないことに気がついていた。
だが、それは孝俊が黙っていたことに対する苛立ちからくるものなのか軽蔑からくるものなのか自分でもよくわからなかった。
孝俊に婚約者がいることを知った時は少なからずショックだった。
ズキッと痛む胸に、あれだけ2人で会って話す機会はいくらでもあったはずなのに言ってくれなかった孝俊に腹が立っただけだ、あかりはそう言い聞かせていた。

それからは当り障りのない挨拶を朝孝俊が出社してきた時に交わすだけだ。
3ヶ月ほどしょっちゅう帰りに会っていたとは思えないほど、夕方に退社してくることはなくなった。
朝、挨拶を交わす孝俊は平穏を装っているがどこかよそよそしい感じがした。
いや、あかり自身がよそよそしさを平穏で装っているからそう感じるのかもしれない。

孝俊とドライブに行き食事をしていた時は本当に楽しかった。
もちろん車のことも詳しくて話が盛り上がった。
それ以外にも時事問題や社会問題にも知性を感じさせる考えを持っていて、とてもためになったし、議論するのがとても楽しかった。
仕事ができて隙がなく、女性の対応も完璧だと思っていた孝俊があかりをからかい声を出して笑うのもどこか心地よさを感じ始めていた。
そんな中で婚約者がいることを知って、もうあのように2人で楽しむことはできないのかと残念に思う気持ちはとっさに気付かないふりをした。
もう2人きりで会うことはないのだから、残念がっていて仕方がない。

田中室長と井上先輩には最近元気ないと言われることも会ったが、孝俊と会うときはなるべく元気いっぱいに明るく振る舞うように気を付けた。
せっかく友達になったのだから、これで縁が切れてしまうのも寂しい気がした。
たとえ今の状況は顔見知り程度だとしてもだ。
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