君にまっすぐ
「どうしてそんなこと言うんですか？」

今までに聞いたことのないような低い声であかりが言葉を絞り出す。

「あかりが好きだと気付いたんだ。言うつもりはなかったけど、君が他の男のものになると思うと耐えられない。」

「それで、私がその想いに応えたら愛人にでもするつもりですか？私が愛人になるような女だと思ってるんですか！？」

「違う！そんなことは思ってない！」

「じゃあ、どういうつもりで言ったんです？婚約者の方がいながらそんなことを言うなんて。」

「だから、政略結婚で婚約者とは利害関係のみだ。俺の気持ちは自由だろ？」

バシッ

あかりは掴まれていた右腕から孝俊の手を振り払い、そのまま孝俊の左頬を打つ。
孝俊は左手で頬を抑えながらあかりを見つめている。

「最低です！孝俊さんは軽い人だったけど、本当は誠実な人だと思っていたのに！」

あかりは声を荒らげ目に涙をためて孝俊を睨みつけている。

「あなたのこと見損ないました。失礼します！」

あかりは夜もまちへと走りだす。

「あかり！」

孝俊は名前を呼ぶものの追いかけることは出来ない。

「あの、俺が言うことでもないけど順番が違うんじゃないですか？」

２人の様子を見守っていた賢介が孝俊に声をかけ、あかりのあとを追っていった。




「あの専務。さっきのは駐車場管理人の森山田さんですよね？何かトラブルですか？」

急にその場から離れ駆け出し揉め出した孝俊に声を掛けることが出来なかった秘書が寄ってくる。

「いや、大丈夫だ。何も問題はない。すぐ戻る。」

そういって、オフィスへと向かう孝俊の左頬は赤く腫れていた。
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