君にまっすぐ
ハァハァ

駅につき、壁に手を当てて一息つく。
頬にはあふれた涙が伝っている。

「あかり!大丈夫か?」

追いついた賢介が心配そうに近づいてくる。
あかりは壁を向いたまま涙を拭うと笑顔をつくり賢介を振り向いた。

「うん、大丈夫。いきなりあんな事言われてちょっと驚いちゃった。ごめんね、急に走り出しちゃって。」

「いや、それはいいけど、酒も入ってるし無理するなよ。」

「うん、わかってる。」



「あかり、今日は頭が混乱しているだろうからもう帰ろう。」

俯いて黙ってしまったあかりをしばらく見つめていた賢介はそう話しだした。

「うん。ごめんね。」

「明日は休みだろ?帰ってゆっくり休んで、また今度会って話そう。」

「うん。ありがとう、賢介。」

あかりをやさしく気遣ってくれる賢介。
その優しさに触れながらも、あかりの頭の中は孝俊が占領していた。





部屋についてシャワーを浴びて今日はもう寝てしまおうとベッドに入るがなかなか寝付けない。

孝俊があんな事言うなんて。
あかりと会うようになるまでは1ヶ月毎に女性をとっかえひっかえしていたような人だ。
しかも、婚約者がいながらだ。

最低だ。

あかりは孝俊に腹を立てずにはいられない。
しかし、なによりも腹がたったのは自分にだ。
孝俊に好きだと言われ、他の男のものになってほしくないという言葉を告げられた時、あかりの心は跳ね上がった。

嬉しかった。

そう、嬉しいと思ってしまった。
そんな自分が最低だと思った。
孝俊に婚約者がいるとわかってからずっと自分の気持をごまかし続けてきた。
好きじゃない、ただの友達だ。
なにより自分自身が婚約者のいる人を好きになるなんて。
だから必死で自分の心に蓋をしていた。
そして、今日もまた更に重いおもりを心の蓋の上に積み上げる。
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