君にまっすぐ
「孝俊と田中は本当に仲がいいな。俺達が海外にいることが多かった分、田中には世話を掛けたな。」

「そうね。孝俊さんが田中さんに懐いてたからついつい任せてしまっていたけれど、私たちとの交流の時間が少なかったことが、恋愛に本気になれなかった原因だとしたら申し訳ないわ。本当は政略結婚も乗り気じゃなかったみたいだし。孝俊さん、ごめんなさいね。」

父さんと母さんが真面目な顔をして孝俊に謝罪の言葉をかける。

「いや、父さんと母さんが悪いんじゃない。田中が言うように、俺はこれまでの人生自分で決めて行動してきたことが少なかったように思う。でもそれは、楽だったからだ。エネルギーを使って流れに逆らうほど好きになったやつもいなかった。」

再び両親に向かい真剣な表情で言葉を告げる。

「俺、麗子さんに話をするよ。向こうのご両親にも頭を下げる。それで、片がついたら父さんと母さんに会わせたい人がいる。その人と一緒に生きていきたいんだ。」

「あぁ、俺達からも花島さんには話をしておこう。向こうにも相手がいるようだから特に問題はないだろう。」

「ふふっ。孝俊さん、こんなに素敵な人になっちゃって。孝俊さんを変えてくれた方も素敵な女性なんでしょうね。早くお会いしたいわ。」

「まだ無理ですよ。」

親子3人で朗らかなムードになる中、田中が釘を刺す。

「田中!」

「いかにも相手と交際しているように話していますが、まだ付き合ってさえいないですからね。むしろ1度振られてます。」

「ハハッ。」

「うふふ。」

田中の言葉に両親も笑わずにはいられない。

「だったら、早くものにするしかないな。逃せる女性じゃないんだろう?」

「はい。」

「ところで、孝俊。そろそろ俺は日本を本拠地にしようと思っている。だから、今後はお前が世界を飛び回ることになる。そのつもりで覚悟しとけよ。」

「はい、もちろんです。」

孝俊の目に力がみなぎっている。
その様子を見て、3人は安心したように微笑んだ。
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