君にまっすぐ
政略結婚についてまさかの事実が発覚したが、それもこれも全部自分が流されてきたせいだ。
結婚の話が出た時に、自分の人生は自分で決めるとはっきり言っておけば、こんな事にはなっていなかった。
しかし、こうして行動しようと思ったのもあかりに出会ったからだ。
そう考えると結局はこうなる運命だったのかもしれない。



コンコンッ

「花島様がお見えになりました。」

「入れ。」

立ち上がり麗子を出迎える。

「ごきげんよう、孝俊さん。」

「わざわざご足労頂きありがとうございます。」

ソファに座り、秘書がお茶を出して部屋を出たところで口を開く。

「それで、話とは何かしら?」

「いきなりで申し訳ないですが、婚約を解消して頂きたい。」

「あら。なんだか顔つきが変わったと思ったら、やっぱりそういうことね。」

麗子は出された紅茶を手に取り、優雅に口をつける。

「私は構いませんけど、理由を伺っても?」

「本気で好きな女性ができたので、その人と一緒になりたいんです。」

「もしかして、駐車場の彼女かしら?」

「そうです。」

「前にああは言ってたけど、やっぱり付き合ってたのね。」

「いえ、まだ付き合ってはいません。むしろ拒否されています。」

「どういうことですの?」

「私に婚約者がいる状態では話を聞き入れてくれないそういう真っ直ぐな女性なんです。ですから、まずは婚約を破棄するのが彼女への第一歩です。」

「ふふふ。あなたともあろう人がこれから口説くのね。」

「ええ。こんな軽薄な男は軽蔑されてすでに嫌われているかもしれない。でも、嫌われてても何もせずに諦めることはできない女性なんです。」

麗子は手にしていた紅茶をテーブルに置くと、微笑みながら話しだす。

「あなたとはまともに話してこなかったけど、案外いい男だったのね。もし彼がいなかったら、本気で結婚しても良かったかもしれないわ。」

「それは無理ですね。」

「まぁ。」

「俺がいい男になれたのは彼女のおかげですから。」

「ふふ。そういうことね。」

「ところで、麗子さん。アメリカ人の彼とは結婚しないのですか?」

「彼との交際は父に反対されたから、別れたことになってるの。」

「その反対って、本気の反対だったんですか?」

「何がおっしゃりたいの?」

「2人の気持ちを確かめるためにけしかけたのかもしれませんよ?俺だったら娘が国際結婚したいと言ったら、1度は反対します。」

孝俊の言葉に真意を探るように麗子は孝俊の顔を見つめる。

「確かに。そうかもしれないわね。厳しい父だから何度言ってもきっと許してくれないだろうと思い込んでたのかもしれない。ありがとう。もう1度頑張ってみるわ。」

麗子は今までで一番の笑顔を見せる。

「俺も幸せになりますから、麗子さんも幸せになってください。」

「ありがとう。お互い頑張りましょう。」

結婚が決まって約1年、会ったのは数回だけだが、初めて2人に暖かい空気が流れた。
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