君にまっすぐ
田中にあかりの勤務時間を聞いた孝俊は土曜日に狙いを定めた。
お互いに次の日曜は休みだ。
あわよくば、そのままホテルに連れ込みたい。
なんて、ろくでもないようなことを考えながら、あかりのためにネックレスも用意し、土曜日を迎える。

「武堂様、お疲れ様です。今お車の用意をいたしますね。」

あかりが孝俊に丁寧に声をかけ、作業する。
やはり今日も孝俊に向ける表情はメロメロ笑顔だ。
孝俊はほくそ笑む。

「お疲れ様。森山田さん。もうすぐ仕事も終わりでしょ？いつも俺の車を管理してくれているお礼に良かったら食事でもどう？俺も今日は早く仕事が終わってね。」

一番の笑顔をあかりに向け、甘く優しくさりげなく声をかける。

「いえ、お客様とのそういった行動はトラブルの元にもなりますので、ご遠慮させて頂いております。申し訳ございません。」

先ほどまでのメロメロ笑顔はどこへ行ったのか、と問いただしたくなる社交辞令的な微笑みであかりは即座に孝俊の誘いを断り、きれいな姿勢でお辞儀している。

「え？あ、あぁ、仕事熱心なんだね。」

「ありがとうございます。武堂様、お車のご用意が出来ましたので、どうぞ。」

「あ、ありがとう。それじゃあ、お疲れ様。」

「お疲れ様です。ありがとうございました。」

お辞儀をして見送るあかりを横目に、孝俊は頭を混乱させたまま車を発進させた。
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