次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
埒があかないと思ったのか、槙村さんは会話を切り上げて自席に戻って行った。

その後ろ姿を見ながら、私はため息が漏れるのを止められない。

男女で適齢期が違うとはいえ5歳も差があるのだ。順番的には駿介が先だろう。しかも彼には一族の次期当主たる責任がある。さっさと血筋やら立場やらが釣り合う女性と結婚してしまえばいいんだ。
駿介が結婚してくれなければ私も諦めがつかないじゃないか。

すっきりとしない気分のまま事務処理を続けているとカツカツと力強い足音が廊下から伝わって来た。

「おはよう。朝から悪いんだけど蔵本さん、僕の部屋に来てくれるかな」

「はい、駿介さん。ただいま参ります」

カタンと席を立つと手帳を持って常務室に向かった。

社内では國井常務と呼ばれる事が多いけれど、社長である父親と同じ名字の為、秘書課では「駿介さん」と下の名前で呼ばれる事が多い。特に室長の槙村さんと常務付き秘書の私はほぼ「駿介さん」と呼んでいる。
そして、それは駿介の希望でもある。
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