次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「妖怪って、睦子叔母さんに失礼だよ」

さすがに言葉が過ぎる、と咎めるように睨んだら、可笑しげに目を細められた。

「ほぉ。睦子叔母、ねぇ。文香は妖怪と思ってるわけだ」

「えっ?‥‥あ!ち、違うよ、だって駿介が」

「俺は固有名詞は出してないぞ」

「‥‥‥」

返す言葉をなくして固まった私を見やって声を上げて笑った駿介が、宥めるように頭を撫でてきた。心底楽しそうで、悔しい。

「ははっ。そんな顔するな。確かにあの人は権力に固執する妖怪だからな。今日もなるべく関わりたくはないが、難しいだろう。文香も何か言われたら、俺に言えよ」

「うん、ありがと」

大丈夫だよ、とは流石に言えなかった。ランドホテル社長夫人の睦子叔母は私が駿介と親しくする事に神経質で、些細なことにも気付いて、注意してくるのだ。

私を心配しているからと言いつつ、睦子叔母が望む状態にする為に他の人間の気持ちを一切考えずにグイグイと自分の主張を押し通しやり方は、メンタルダメージが大きい。


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