次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「あら、大変!もしかして文香さんはまだご存知ないの?」

「え?」

「駿介さん、植田さんのご令嬢とお付き合いされてるのよ?夏希さん、帰国されたばかりなのに、もうお二人で何度もお出かけされてて。すっごいわよね」

駿介と夏希さんがデート?

時々メールでやりとりする夏希さんからも、毎日のように会ってる駿介からも、そんな話は聞いていない。

「ああ、でも考えてみれば恋人をいちいち妹に報告する兄なんていないものね?文香さんも自分は必ず教えてもらえる、なんて思い上がった事は思ってなかったでしょう?」

「え、あ、はい、そうですね」

爬虫類な目が嬉しそうに勝ち誇っていて、てらてらした唇は止まる事なく動いているけど、私はそれをガラスの向こうの光景のように見ているのが精一杯。動揺が表情や行動に出ないように、力を総動員してアルカイックスマイルを浮かべ続ける。

早く逃げ出したい。逃げ出して、駿介と夏希さんがつきあってるのがショックなのか知らなかったからショックなのか、ぐちゃぐちゃな頭の中を整理したい。出ないと我慢出来ずに泣き出しそうだ。
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