次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない

失恋が哀し過ぎて考えられないのか、実は恋愛感情はただの錯覚だったのか。

まぁ涙が止まらないよりは人に迷惑をかけないだろう、と今の自分を受け入れる。泣き続けてたら今夜の待ち合わせにも行けないしね。

こうなったらトコトンぼんやりしようとソファに丸まったら、傍らで携帯が大きく振動した。

仕事中にバイブにしたままだった事を思い出して、そっと手に取る。

「あっ‥‥‥」

画面に駿介の名前を表示したまま、着信を知らせる振動を続ける携帯。出来ることなら無視してしまいたいけれど、昨日は早く帰らせてもらったから急ぎの仕事の用件だって事もある。大きく息を吐いて精神を立て直し、静かに通話ボタンを押した。

「もしも‥‥」

「文香、お前何考えてんだっ！」

電話を受けた人間の第一声を遮るのはマナー違反だ。それとも、そんなにも急いだ話なんだろうか？

「普通、何考えてるんだっていきなり言われても、説明出来る人はいないと思うよ」

「自分の胸に手を当てて考えてみろ！それとも俺が怒るような事、いくつもあるのか！」