次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
微かに自嘲しながら、のろのろとクローゼットを開けた。ランドホテルに行くのだ、きちんとした格好をしなくちゃ場違いになってしまう。

とは言え、オシャレをする気分には到底なれない私が選んだのは、黒のセレモニーワンピース。
社会人になったら改まった場所に行く事もあるかもしれないと、就職祝いに蔵本の両親が買ってくれたものだ。胸の下で切り返しがあって、品の良い可愛らしさがある。それに國井のお祖母様からもらったゴールドと真珠のネックレスをつけると、なんだかお嬢様っぽい出で立ちになった。

「本当のお嬢様だったら嘘付かなくてよかったのに‥‥って言っても仕方ない、よ」

鏡の中で困った顔の自分に言い聞かせるように呟いて、気合いを入れるように両手で頬を軽く叩いた。


望んだ将来でなくても、幸せになる努力はしよう。少なくとも敏彦さんは私自身を欲しいと思ってくれてるのだから。








< 166 / 217 >

この作品をシェア

pagetop