次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
『セックス』という単語にゾワリと悪寒がした。


イヤだ。こんな人に触られたくない。身体を許したくなんかない。

頭の中は、ここからどうやって逃げようか、しか考えられない。私自身に好意を持ってない人の手駒にはなりたくない。私の為に大介父さんや駿介を困らせたくない。


「今日は特別にロイヤルスイートを取ってやったぞ。すっごいだろ。お前なんか、俺とじゃなきゃ一生入れない部屋だ。せっかくの初夜だからな。俺の優しさに感謝しろよ」

爬虫類の目が下卑た色でギラつくのを見ながら、足の震えに気付いた。

「あの、申し訳ないのですが、今夜は失礼させて下さい。ちょっと体調が‥‥‥」

「へぇー、ならちょうどいい。部屋で休むことにしよう」

力の入らない膝を叱咤してどうにか立ち上がった私に、敏彦さんが手を伸ばしてきた。

決して大柄ではない敏彦さんだけど、男性だ。捕まったら、きっと逃げられない。とっさに掴まれそうになった腕を引いたら、そのままバランスを崩して後ろに倒れた。
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