次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
胸がザワザワする。不安や怖さにほんのちょっぴりの期待。

持て余す感情のまま隣に座る駿介を見やると、静かな瞳で私を見つめていた。

「こうでもしないとまた文香は逃げ出すからな。俺はお前を手放すつもりはないんだ、覚悟して一生俺の隣にいろ」

「駿介‥‥」

脅してるみたいなプロポーズ。言葉は乱暴だけど、深い愛情が伝わって来る。抱きつきたいほど嬉しくてたまらないけど、心の引っ掛かりは取れない。

「でも、やっぱり‥‥」

「お前、俺も、俺の気持ちもナメてるだろ。本気で欲しいと思ってるのに、何の策もなく動いてると思うのか?」

自他共に認める一族の次期当主。ビジネスでも迂闊と言われる行動をとった事のない駿介。

「両親とお祖母様にはしばらく前、俺が決心した時に報告済みだ。役員連中にも親族の重鎮にも根回しは済んでる。ま、この数年で文句言われないだけの実績も積んだしな」

にやりと笑う駿介を見つめる事しか出来ない。私と一緒にいるためだけに、一体いつからどれだけの準備をしてくれたのだろう。
< 205 / 217 >

この作品をシェア

pagetop