次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「もちろん、最初から用意してありますよ。幸恵さん、岡崎取締役はお戻りなんですか?」

「ええ。相手先とのお話が随分上手くいったみたいでね、ご機嫌にお部屋に戻られたわ」

幸恵さんのマグカップにコーヒーを注いで渡すと、ふふっと笑いながら答えてくれた。

岡崎取締役は仕事の出来るナイスミドルだけど感情の落差が激しくて、ご機嫌ななめな時は扱いが難しい。それが前任者が産休に入った半年前から幸恵さんが担当になって、随分大人になったと秘書達の間で密かな話題になっている。

まぁ、50を過ぎた男性に「大人になった」って表現はおかしいけど。

「相変わらず取締役のお母さんみたいですね。おかげで秘書室は今日も平和なんですけど」

からかうように言ったら、幸恵さんも楽しげに答えてくれた。

「自分でもたまに面白くなっちゃうのよねー。だって取締役、私の父親と変わらない年齢なのよ。なのにお母さんとか、調教師だとか‥」

確かにそうだ。でも、それが一番上手くいくバランスなんだろう。

なるほど、と聞いていたら幸恵さんが「あっ!」と声をあげた。
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