次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
乗り込んだエレベーターの階数表示を見つめながら素っ気なく答えると、微かに笑う気配。いかにも秘書!な態度と返答が面白かったのか。
駿介にとって、私はまだ秘書にもなれない妹のままなんだろうか‥‥。

考えながら地下駐車場を歩いていたら、不意に目の前の駿介がピタリと止まった。

「なぁ、とりあえず確認だけど、それ以外に服ってもってないよな?」

「服?」

思わず自分の格好を見る。なにかおかしかっただろうか?

今日のスーツは定番の型のスーツでオシャレ感はイマイチだけど、ベージュとアイボリーの中間のような軽やかな色がお気に入りのスーツだ。美術の個展に行くのに場違いな服ではないはずだけど‥‥。

「予備のスーツでしたらロッカーにはありますが。黒色でこのスーツよりはきっちりしてますし、着替えてきましょうか?」

もしかしたら軽やか過ぎてダメなのかと問いかけると、首を横にふられた。

「そうじゃない。いい、とりあえず車に乗ってくれ」

今日は自分で愛車を運転してきたらしい。意図が汲み取れずに困惑する私を促すと、自分もさっさと運転席に乗り込んだ。
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