次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「だが恋人じゃない」

強い視線に、たまらず俯いた。
恋人だと言えばさっきの話は覆り、ミナトを紹介しなければならなくなる。恋人じゃないと言えば駿介との距離が取りづらくなるし、最悪の場合、全てを話して誤解を解かなかった理由も話さなければいけなくなる可能性もある。

ミナトは私にとっての安全装置。
ミナトの存在を匂わせれば駿介も私に対して踏み込んで来ないし、わたしも駿介への想いを止められる。
だから出来るならこのまま、出来るだけこのままにしておきたいのに。

「否定しないのは肯定だ。今から俺は、文香には恋人はいないという認識だ。良いな?」

良くはないけど、真っ向から否定する事も出来ない。

「‥‥でも大切なのはホントだもん」

安全装置の全面解除だけは阻止したくて、ささやかな反抗を口にするけど、スルーされてしまう。

「さて、話しも終わったし帰るか。明日も仕事だしな」

一方的に話を終わらせた駿介は軽く手を挙げてチェックをする。
< 66 / 217 >

この作品をシェア

pagetop