冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「私はもう、私の周りで誰かが傷つくのを見たくはないのだ」
「え……」
「できることなら、この世のすべてを守りたいと思っているが、さすがに神でもない私にそんなことはできない。
しかし、少なくとも手の届く限りのところは、自分の手で守っていきたい」
「ディオン様……」
真っ直ぐに見せられるディオン王太子の志に、胸が熱く震える。
「あからさまに君に護衛を付けるのは他の者に不審に思われてしまう。
一人になる時間も多いだろうが、何か少しでも変わったことがあれば、私に知らせなさい」
「はい」
「君に指図した者が、悪魔に魂を売っていないことを祈っている」
――それはきっと……大丈夫だと、思う。
漆黒の瞳に向かって、自分自身がそう信じないといけないという思いを込める。
グレイスが致そうとしたことは、自身の想いを守りたい一心であったと信じたいから。
「わたくしは大丈夫ですが、ディオン様は――……」
「なんだ」
「過去に、とてもお辛い経験をされたのですね?」
自分の身の危険よりも、漆黒の瞳の奥に見えた哀しみの方が心配だった。
見開くディオンの瞳に、自分の影が映っているのがわかった。
「え……」
「できることなら、この世のすべてを守りたいと思っているが、さすがに神でもない私にそんなことはできない。
しかし、少なくとも手の届く限りのところは、自分の手で守っていきたい」
「ディオン様……」
真っ直ぐに見せられるディオン王太子の志に、胸が熱く震える。
「あからさまに君に護衛を付けるのは他の者に不審に思われてしまう。
一人になる時間も多いだろうが、何か少しでも変わったことがあれば、私に知らせなさい」
「はい」
「君に指図した者が、悪魔に魂を売っていないことを祈っている」
――それはきっと……大丈夫だと、思う。
漆黒の瞳に向かって、自分自身がそう信じないといけないという思いを込める。
グレイスが致そうとしたことは、自身の想いを守りたい一心であったと信じたいから。
「わたくしは大丈夫ですが、ディオン様は――……」
「なんだ」
「過去に、とてもお辛い経験をされたのですね?」
自分の身の危険よりも、漆黒の瞳の奥に見えた哀しみの方が心配だった。
見開くディオンの瞳に、自分の影が映っているのがわかった。