冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 その他、招待客の選別は王子お二人が慎重になされる。
 その二人が、すでに並べてある椅子の配置を見ながら、何やら話し合っているのを横目に、フィリーナは窓拭きに取りかかった。

 こうして様子をうかがっても、二人にわだかまりがあるようには到底見えない。
 ディオンに笑顔で話しかけるほど、グレイスの心に黒いものが蠢いていたとは思えないのに。
 あれからというもの、グレイスはフィリーナに一切の関心も示されず、あの碧い瞳を最後に見たのはいつのことだったか、もう忘れてしまいそうだ。
 ディオンは、グレイスがフィリーナを特別な目でみていると言っていたけれど、それはあまりにも信じがたく、現実はフィリーナの心をチクチクと針で刺しているようだった。

 切なく痛む胸をかばい、王子二人の並んでいる高貴な姿から視線を振り切り、大広間の窓拭きに徹する。
 綺麗なように見えて、近くに行くとわかる硝子の曇りは意外と頑固だ。

 ――この小さい背丈じゃ上の方は届かないわ……図書室で脚立を借りてこなくちゃ。



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