冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 隣に見上げる横顔が、下を見つめたまま目元をしかめる。

「フィリーナ、誰か下に居たか?」

 低く訊かれて、背筋がぞくりとした。
 ディオンの問いの意味が伝わってきたから。

「足音で誰かが通った気配はわかりましたけれど、誰かと聞かれましたら、下を見ておりませんでしたので……」
「そうか」
「ただ、メリーとは話をしました」

 見つめていたディオンの横顔が、にわかに固まったように見えた。
 どうしたどうしたと、騒然とする大広間で、ダウリスがこちらへ駆け寄って来た。

「どうかされましたか」
「ああ、少しな」

 二人は、近くに立つフィリーナに聴こえるのがやっとの声で密やかに話した。

「申し訳ありません、ワタシが居ながら」
「いや、構わない。私が気づいたからな。
 だがダウリス、……メリーから目を離すな」
「御意に」
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