冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「え……っ」
思わず上ずった声を出すと、ディオンはフィリーナを見ないようにして囁いた。
「フィリーナ。
君はやはり、野放しにはしてもらえなさそうだ……あまり一人にならない方がいいかもしれない」
低い声だったからなのか、背筋を駆け下りるものに身体が震えた。
「大丈夫だ! 皆は仕事に戻れ!」
ダウリスがざわつく大広間に声を上げる。
騒然さをかき消すように、使用人達は元の忙しなさに戻っていった。
倒れた脚立を起こすダウリスに、フィリーナは「申し訳ございません」と頭を下げる。
再び立ち上がった脚立の具合を見るディオンの向こうに、ふと視線を感じた。
大広間の様子をうかがいに来ていたのか、今まで姿の見えなかったグレイスが、……ほんの一瞬だけ、とても冷たい目つきでこちらを見ていたような気がした。
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思わず上ずった声を出すと、ディオンはフィリーナを見ないようにして囁いた。
「フィリーナ。
君はやはり、野放しにはしてもらえなさそうだ……あまり一人にならない方がいいかもしれない」
低い声だったからなのか、背筋を駆け下りるものに身体が震えた。
「大丈夫だ! 皆は仕事に戻れ!」
ダウリスがざわつく大広間に声を上げる。
騒然さをかき消すように、使用人達は元の忙しなさに戻っていった。
倒れた脚立を起こすダウリスに、フィリーナは「申し訳ございません」と頭を下げる。
再び立ち上がった脚立の具合を見るディオンの向こうに、ふと視線を感じた。
大広間の様子をうかがいに来ていたのか、今まで姿の見えなかったグレイスが、……ほんの一瞬だけ、とても冷たい目つきでこちらを見ていたような気がした。
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