冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*
相変わらず給仕の時間は緊張する。
今夜は特に、昼間のグレイスの様子が気になって、いつも以上に身体が強張っていた。
朝よりも少し豪華な夕食。
テーブルに置くたびに、食器の音が広間に転がった。
夜の静けさも相まって、会話のない二人の空気が重く感じられる。
だけどそれは、フィリーナが勝手に感じているもので、ディオンはそばに寄ったフィリーナに気安く話しかけてきた。
「痣ができているな。昼間のものか」
「あ、……気づいておりませんでした」
綺麗な焼き目のついたラム肉の皿を置くと、袖口から覗く手首に青い痣が見えた。
「大丈夫か?」
「痛みはないので、すぐに治ると思います」
「そうか」
スープ皿を置いてレードルで注ぐと、それまで無言だったグレイスが顔も向けずに口を開いた。
「ずいぶんと仲がいいみたいだな。知らなかったよ、二人がそんなに親しくしているなんて」
とげとげしい物言いに、胸がちくりと痛む。
「なんだグレイス。妬いているのか」
「はっ、妬く? 僕が? 笑わせる」
乾いた笑いを零すグレイスに、痛んだ胸は強く絞られた。
相変わらず給仕の時間は緊張する。
今夜は特に、昼間のグレイスの様子が気になって、いつも以上に身体が強張っていた。
朝よりも少し豪華な夕食。
テーブルに置くたびに、食器の音が広間に転がった。
夜の静けさも相まって、会話のない二人の空気が重く感じられる。
だけどそれは、フィリーナが勝手に感じているもので、ディオンはそばに寄ったフィリーナに気安く話しかけてきた。
「痣ができているな。昼間のものか」
「あ、……気づいておりませんでした」
綺麗な焼き目のついたラム肉の皿を置くと、袖口から覗く手首に青い痣が見えた。
「大丈夫か?」
「痛みはないので、すぐに治ると思います」
「そうか」
スープ皿を置いてレードルで注ぐと、それまで無言だったグレイスが顔も向けずに口を開いた。
「ずいぶんと仲がいいみたいだな。知らなかったよ、二人がそんなに親しくしているなんて」
とげとげしい物言いに、胸がちくりと痛む。
「なんだグレイス。妬いているのか」
「はっ、妬く? 僕が? 笑わせる」
乾いた笑いを零すグレイスに、痛んだ胸は強く絞られた。