冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*

 ダウリスに先導されて、入ったディオンの部屋。
 ここへ来たのは、数日前、レティシア姫が来訪した時以来だ。
 広い背中の陰から顔を出したフィリーナの様子を見て、ディオンは目を見開いて驚いた。
 窓際にある書物の積まれた机に着いていたものの、手にしていた本をその場に放り二人に迫った。

「何かあったのか」
「先ほど夕食の際、これの食事に毒が盛られておりました」
「なんだと!? 本当か……っ!?」

 ディオンが普段とは違う声を上げるものだから、震えていた小さな身体が大げさに飛び上がった。
 答えを求めてくる漆黒の瞳に、フィリーナは震えながらもかろうじて小さく頷く。

「大丈夫なのか? 口に含んだのか?」

 指先までが冷たく感じている自分の顔は、きっと血の気を失っているのだろう。
 目元をしかめたディオンは、フィリーナに近づくと彼女を怯えさせないよう感情を抑えて低く訊ねた。
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