冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「 ――話す?
 グレイス様の、『誰にも言わないでくれ』と言われたあのお心を?
 でも――……

「大丈夫だ。私が必ず君を守ると約束しよう」

 国王となるにふさわしい澄んだ声は、フィリーナの不安を汲んでくれる。
 目線を上げると、漆黒の瞳が一切の揺らぎなく待ち受けてくれていた。

 グレイスは、話したところで何も変わらないだろうと言っていたけれど、こんなに寛大な心を持っているディオンであれば、もしかしたら理解を示してくれるかもしれないという期待が湧いてきた。

「はい、お話しいたします」

 信頼を置ける頼もしさに答えると、ディオンは優しくフィリーナの頭を撫でる。

「いい子だ。ありがとう、フィリーナ」

 柔らかな息を吐いたディオンの大きな掌の温かさが、心にじわりと染み入る。
 安心感とは別の感情が、その温かさに膨らみを増した。



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