冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*
ダウリスが部屋の外に見張りに出ると、フィリーナは窓辺の椅子に座らせられた。
フィリーナの話に耳を傾けるディオンはそのすぐそばに立ち、夕闇迫る窓へ視線を投げる。
グレイスの名前を出したとき、一瞬だけ驚いたものの、レティシア姫との通い合う心を伝えると、ディオンはじっと目を閉じそれを聞いていた。
「グレイス様は使えないわたくしに代えて、メリーに指図なされたのかもしれません」
「それで、事情を知るフィリーナを、口封じのために手に掛けさせようとしたのか」
「はい、おそらく」
膝の上でぎゅっと手を握ると、見下ろしてくる漆黒の瞳が優しく細められた。
にわかに湧いた怯えが、目線だけで撫でられるよう。
震えていた胸は治まり、逆にほのかな熱を持った。
「グレイスがレティシアを見初めていることは、もしかしたら、と思ったことは何度かあった。私とレティシアの仲に世話を焼いていたから、努めて心を圧していたのかと思っていたが……」
「そ、それでは、グレイス様のお心を汲んでくださることは……」
ダウリスが部屋の外に見張りに出ると、フィリーナは窓辺の椅子に座らせられた。
フィリーナの話に耳を傾けるディオンはそのすぐそばに立ち、夕闇迫る窓へ視線を投げる。
グレイスの名前を出したとき、一瞬だけ驚いたものの、レティシア姫との通い合う心を伝えると、ディオンはじっと目を閉じそれを聞いていた。
「グレイス様は使えないわたくしに代えて、メリーに指図なされたのかもしれません」
「それで、事情を知るフィリーナを、口封じのために手に掛けさせようとしたのか」
「はい、おそらく」
膝の上でぎゅっと手を握ると、見下ろしてくる漆黒の瞳が優しく細められた。
にわかに湧いた怯えが、目線だけで撫でられるよう。
震えていた胸は治まり、逆にほのかな熱を持った。
「グレイスがレティシアを見初めていることは、もしかしたら、と思ったことは何度かあった。私とレティシアの仲に世話を焼いていたから、努めて心を圧していたのかと思っていたが……」
「そ、それでは、グレイス様のお心を汲んでくださることは……」