冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 ――私が、真実を告げてしまったから……

 実の弟の裏切りを知ってしまったから。
 ただでさえ重責を担うディオンには、さらなる負担が圧し掛かってしまった。

 ――私にできることは、もっと他にあったはずなのに……

「レティシアと王位が欲しいのなら、グレイスが直接手を出してくることはないと思いたいが、まずはメリーをどうするかだ。毒を盛った証拠も、今のところはないからな」

 そこまで言うと、溜め息を吐きうんざりという様子で、小さな笑いが零された。

「バルトは平和な国だと思っていたのに、まさか身内で争いごとが起こるとは、皮肉なものだな」
「ディオン様……」
「私は常に命を狙われる身。自分の身は自分で守る術は身につけているつもりだが、今後は王宮内でも気を抜けない」

 薄ら笑っているけれども、身内の裏切りに心を痛めているのはたしかだ。
 
 ――私がもっと、心を強く持ってグレイス様を説得することができていれば、ディオン様にこんな思いをさせることはなかったかもしれないのに。

 しっかりと佇む高貴な姿の腕の中で、強く拳が握られている。
 実際に命を狙われた恐怖と、悲しみを堪えながらも、毅然とした姿勢は崩せずにいるように見えた。
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