冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*

 晩餐会は滞りなく済み、一行は二階にある舞踏会場へと移動する。
 男性は思い思いの相手を探しては、ダンスへと誘いだす。
 王宮の晩餐会はいわばお見合いの場。
 こういった社交の場で生涯の伴侶を見つけ出すのは王族や貴族の習わしだ。

「はあ、ディオン様のお眼鏡に叶うのは、やっぱりあのくらいの美人でなければ無理な話だったのよね」
「レティシア様がお相手では、妬むこともできませんわね」

 葡萄酒や発泡酒を紳士の方々に提供しながら、壁際の人の合間を進む。
 華やかなドレスを纏う女性達の近くを通ると、口々にディオン王太子の婚約を惜しむ声が耳に入ってきた。

 ――それはそうだわ。
 見目麗しい容姿で、次期国王となられるお方だもの。
 それに加えて、優しくて、聡明で、とても頼もしい……
 きっと世の女性なら誰だって、お目に留まりたいと思うはず。
 私だって――……

 思い出した間近な漆黒の瞳に、頬が熱くなる。
 身のほどを知らない想いを飲み込むと、喉の奥がきゅっと苦しくなった。
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