冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「し、失礼いたします」

 ちらりと覗いた儚く白い肌に、胸が鼓動を速める。
 深々と頭を下げて見たエプロンのほつれに、レティシア姫との違いを見た。

「寝屋のお手伝いに参りました」

 まるで一つ覚えのように同じ言葉を繰り返す。

「そう、わざわざありがとう。だけど着替えはもう済ませてしまったわ、ごめんなさいね」

 使用人ごときにでも、レティシア姫はとても優しく声を掛けてくれる。
 容姿が美しいお方は心までもお美しいのだと、グレイスが心を奪われる理由がよくわかった気がした。

「紅茶をお持ちいたしました。お休み前にお召し上がりくださいませ。
 カモミールの紅茶になっておりますので、ぐっすり眠れて疲れも取れるかと思います」
「まあ、ありがとう」

 きゅるきゅると足の鳴るワゴンを押し、寝台のそばまでお運ぶ。
 緊張のあまり顔を上げられないままテーブルに一式を置いた。
 麗しい姿を視界の端に入れると、心臓は大袈裟に鼓動を強める。
 「失礼いたします」と下がろうとすると、

「あなたが、……フィリーナかしら?」

唐突に、柔らかな声がフィリーナの名を呼んだ。
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