冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「そう思っていただけて嬉しいわ」

 グレイスも言っていた。
 誰か一人でも気持ちを理解してくれる者がいることが、とても心を軽くしてくれると。
 レティシアもいつも辛い思いを抱えていたのだと思うと、やっぱりディオンとの結婚はどうにかならないものかと考えてしまう。
 少しでもレティシアの心を救ってあげることができたのかと胸を熱くしていると、ふと、柔らかな微笑みが目の前から消え失せた。

「あなたがずいぶん賢い子だということは聞いているわ。
 でも、まったく使えない子だともおっしゃっていたわよ?」

 柔らかな微笑みが消されると、綺麗な顔の無表情というものがこんなに怖いものなのかと、背中にぞくりと冷たいものが走った。

 ――……レティシア様はご存じなのだわ。
 グレイス様が私を使って、何をしようとなさったのか。

「手を貸してはくださらなかったそうね。
 グレイス様のことは、お気に召さなかったのかしら?」

 まるでフィリーナがグレイスに溺れかかっていたことを見てきたかのような言い方に、頭と顔がかっと熱くなった。

 ――そこまでご存じなの……っ

 わかってはいたけれど、自分は最初から利用するためだけに甘やかされていたのだ。
 自分のあまりの愚かさと、それを遠くから笑われていたかもしれないことが、恥ずかしくてたまらなくなった。
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