冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ぐ、グレイス様は、とても魅力的なお方です。
 ですが、わたくしは、人としての心を失いたくはありませんでしたので……っ」

 天蓋の下で、真っ白の寝着に身を包んだレティシアは、儚い天使か神聖な女神のようにも見える。
 だけど、寝着の隙間から覗かせる白く豊満な胸元と、持て余すように組まれる長い脚が、高飛車な性格を垣間見せているような気がした。

「グレイス様も少々焦られていたのね。取り込む人間を間違えたみたい」
「お、お言葉ですが、レティシア様……」

 自身も関わる事情を知りながら、悪びれもしないレティシアに酷く幻滅する。

「お止めになろうとは、思われなかったのですか? グレイス様はレティシア様のために――……」
「口を慎め、小娘が」

 背後で低く唸るような声と金属の擦れる音を聞いたかと思うと、鋭く光る切っ先が、顔の真横に付けられた。

「およしなさい、クロード」

 クロードがまだ部屋の中にいたことに、今初めて気がついた。
 騎士だけに、気配を殺していることが身についているのだ。
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