冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「フィリーナからは何も聞いていない。私がお前の素行を注視していて気づいたことだ」
「ほう、それは何とも賢く頼もしい限りでございますね、次期国王陛下殿」

 ディオンが、自分を庇ってくれる言葉が、胸を熱くたぎらせた。
 恐ろしい光景に震えている場合ではないと、心が強く奮い立つ。

 今ここには、イアンもダウリスもいない。

 ――私が、お二人をお守りしなければ……っ

 震える身体を押して、真っ直ぐとディオンの方へ向かう腕に手を這わせる。

「お止め、ください……」

 ぎらりと妖しく光る切っ先をものともせずに、懇願するように碧い瞳を横から見上げる。

「こんなことをして、何になるというのですか。
 お二人は力を合わせて、今までこの国を守ってこられたではありませんか。
 それなのに、こんなことで、すべてを壊してしまってはなりません」

 必死に説得しようとするフィリーナに、表情を変えることなく、グレイスは碧い瞳だけを向けた。
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