冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「これから、国王様の元へ行かれるのですか?」
「ああ。……夜もだいぶ更けてきたが、このまま蓋をしていてはいけないような気がするのだ」

 強くあろうとなさる気高い姿勢。
 でも、それは表向きのもので、瞳の奥ではグレイスに言われた言葉が不安を煽っているような気がしてならなかった。

「わたくしも、ご一緒してはいけませんか?」

 身の程知らずなことを言っていることはわかっている。
 だけど、グレイスの言葉が頭を離れなかったから。

 ――“消えてしまいたくなるかもしれないな、あなたは自分から”

「お部屋の外でお待ちしていても構いません……わたくしはディオン様のおそばで……」
「フィリーナ」

 最後まで言わせてくれなかったディオンは、火照りのくすぶっていた頬に掌をそっと滑らせた。

「本当に心強い」

 見つめ合い、お互いの瞳に強さを宿す。
 心が同調していると感じるのは、もしかしたら勘違いなのかもしれない。
 けれど、優しく取られた手から、ディオンの信頼が心に流れ込んできたような気がした。


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