冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*

 王宮の最上階にある国王の部屋。
 広間のものよりも少し小さくしたような、それでも立派な扉の前に居た番人兵にディオンは、燭台を持っていない方の手を挙げた。

「国王陛下はもうお休みだろうか」
「はい、すでに」
「すまないが、失礼する」
「え……あっ、ディオン様!」

 驚く兵の制止に構わず、ディオンはフィリーナの手を引いて扉を開く。
 薄暗い部屋の片隅で、書物に書き物をしていたらしい執事が、驚いて手元の燭台の明かりから顔を上げた。

「ディ、ディオン様……っ!?」
「お休みのところ申し訳ないが、話を聞かせてもらいに来た」

 狼狽える執事に構わず、ディオンは燭台の明かりで寝台を照らした。
 低く呻くような声は、国王のものだ。
 ぼんやりとろうそくの明かりに浮かび上がるのは、横たわる男性の姿。
 頬骨の形がわかるほどに痩せこけた顔は、齢に合わず老いて見える。
 初めてお目にかかるこの国の最高権力者。
 かつては綺麗に整えていたであろう白い髪が枕元で動き、薄らと眼が開かれた。
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