冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ディオン、か……どうした、こんな夜更けに……」

 寝起きのせいではないであろう弱々しい声で、国王は寝台に身を起こした。

「お聞きしたいことがあります」
「なんだ、唐突に……」

 寝台の脇にある台に明かりを置くディオンから、色のわからない国王の瞳が後ろに控えていたフィリーナの方へと向けられた。

「その娘は……」
「私の身の周りの世話をしてくれている者です」
「フィリーナと申します」
「今はそれより……」

 失礼にならないよう丁寧に頭を下げると、ディオンは余裕なく口を開いた。

「なんだ、やけに急くじゃないか」

 軽く咳をした国王は、執事に「水を」と頼み一口だけ口に含む。

「何が聞きたい」
「グレイスが私を存分に苦しめ、消そうとしている本当の理由です」

 ディオンの言葉に、心当たりがあるように国王は目を見開いた。
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