冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「はい、そうです。……そのことで、グレイスは酷く心に傷を負っております。それが私を恨む理由だというのはわかっております。
 ですが、グレイスは私に『何も知らない』と言っておりました」
「そうか……。
 本来なら、グレイスにも何も話すつもりはなかったのだがな……。負けてしまったのだよ、かつて愛した女の面影に」
「どういうことですか? それが父上の罪ということと関係があるのですか。かつて愛した人とは……」

 視線を手元に落とした国王は、過去を思い出すかのようにじっと目を閉じた。

「オリヴィア・ヴィエント」
「“ヴィエント”?」

 国王の口から出てきた女性の名を、ディオンはいぶかしく繰り返す。
 その名前には、フィリーナも聞き覚えがあった。

「ヴィエンツェ国王妃、今は亡きオリヴィア・ヴィエントは……かつてこの城にいたワタシの妾。そして……ディオン、お前の実の母だ」
「は――……?」

 ――え……?
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