冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 にわかには受け入れがたい言葉に、ディオンは口を開いたまま動きを止めてしまった。
 フィリーナも固まってしまったのは同じだったけれど、上手く頭が働かない中、嫌でも気づかされたことがあった。

「つ、まり、ヴィエンツェ国王妃は私の母で、レティシアとは……兄妹で、あると?」
「ああ、そうなる」

 気づいてはいけないような気がしたことをはっきりと口にされて、強い衝撃が頭を震撼させた。

「待っ、てくれ……なぜそんな……」
「ディオン様」

 頭を抱え、半歩だけ後ずさるディオン。
 今にも倒れてしまいそうで、自分が動揺している場合ではないとたくましい身体を支えた。
 大きな掌にくしゃりと掴まれる漆黒の髪。
 今日も見惚れるほど美しいと思ったレティシア姫の髪と、重なった。

 ――ディオン様とレティシア様が、兄妹……?
  だって、お二人は……

「父上は、それをご存じの上で、結婚の話を進められたのですか?」
< 227 / 365 >

この作品をシェア

pagetop