冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 この国とヴィエンツェ国のための結婚をすることになっているのに。

「世継ぎを作れないと、知っていて――……」

 力なく呟くディオンの心配していることが、触れるたくましい身体から伝わってくる。
 常に両国のことを考えているディオンは、国を守っていく王位を継承するための世継ぎのことまで、責任を負っていたはずだ。
 それなのに……

「わかっていた。だが、あの娘を一目見たときから、彼女の生き写しのようで……頼みを断ることができなかったのだ」

 ――頼み……?
 まさか……

「結婚の話は、あちら側から持ち掛けられたものだったのですか?」
「オリヴィアが、自分を捨てたワタシを恨みながら息を引き取ったと言われてしまっては……あの娘の話を飲まずにはいられなかった」

 ――レティシア様は、最初から知っていて……ディオン様と婚約されたの?
 でも、だって、グレイス様との想いを遂げるために、グレイス様はディオン様を手に掛けようとまでなさったのに……?
 待って……だけど、レティシア様は、それを他人事のように――……
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