冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「子を奪い、オリヴィアを捨てたワタシのせめてもの償いが、ディオン・バルティアを彼女の誇れるような王にすることだった」
「待ってください、それならグレイスは……」

 ついさっきまでフィリーナを見下ろしていた碧い瞳を思い出した。

「グレイスは、シャルロットとワタシの子だ……よく似ているだろう? 広間にある肖像画の王妃と」

 そして、ディオンと対照的な、色素の薄い白銀の髪の色。
 グレイスの姿が、大広間にあるシャルロット王妃の肖像画としっかり重なった。

「それ、なら……王位の第一継承権は、グレイスの方にあるのではないのですか?」

 はっとしたのは、フィリーナも同じだった。
 妾の子よりも、正妻の子に継承権が優先されるのは当然のことだ。

「本来なら、そうだな」
 
 ――グレイス様が、その話の全てをご存じなのだとしたら……
 ご自分を蔑んでいらっしゃったことも、『何も知らない』とご立腹だったことも……

 ――“消えてしまいたくなるかもしれないな、あなたは自分から”

 あんな風に言われていたことも……全て合点が行く。
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