冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 グレイスが今までどんな気持ちで毎日を過ごしてきたのかを考えると、とても同情などという安い言葉で片付けられるような思いでいられない。
 王位も愛する人も、自分が受けるべきものの全部を、ディオンが攫っていってしまうのだから。

 けれど、だからといって、何も知らなかったディオンが悪いわけではない。
 自分の身をていして、常にお国のことを考えてきたのだから。

 間近で見てきたグレイスの心が、直接胸を痛めつけているよう。
 そして、押し潰されてしまいそうなディオンの責任の重さに、心臓が締めつけられた。

「あなたは……っ!」

 うっ、と呻く声に、王子二人の苦しみに沈んでいた顔を上げる。
 そばにいたはずのディオンは、寝台の上の国王に迫り、胸元を掴みかかっていた。

「私達の運命を、何だと思っているのですか!! あなたの手の上で踊らされるだけの玩具ではないのですよ!!」
「ディオン様……っ、お放し下さいっ、国王様が……っ」

 苦し気な咳をする国王は、寝着の上からでもわかる弱々しい身体つきでディオンに引き上げられた。
 せめて喉の締めつけを解かなければと、たくましい腕にすがる。
 フィリーナの声が聴こえたのか、ディオンは横目に自分を見てくれた。
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