冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 怒りのせいなのか見開いた瞳にぞくりとしたけれど、「お手を」と優しく宥めると、すっと力が抜かれる。

「だからワタシはこうして制裁を受けている」

 咳き込み、脇に置いてあった水を一口飲むと、国王は弱々しく口を開く。

「毒に犯され、じわじわと苦しみ、そして死の恐怖に怯えながら、近いうちに命尽きるだろう」
「今、何と……? 何者かに毒を盛られたのですか……?」
「さあな、誰が毎日それを食事に混ぜているのかは知らないけれど……あるいは誰かからの指示だったのか……ワタシが受けるべき制裁として、甘んじて受けている」

 毎日の食事と言われてすぐに思い出したのが、……メリーの顔だ。
 そして、『誰かからの指示』。

 ――まさか……

 フィリーナと同じく、ディオンが何かを察したような表情でフィリーナを隣に見た。

 あの日、フィリーナに小さな包みを握らせたあの冷たくも感じた掌の感触。
 信じたくない思いで見つめてくる漆黒の瞳を見上げる。
 ディオンもまた、信じがたいと瞳を揺らした。

「グレイスにお前を恨ませるようなことをしたのは、すべてワタシに責任がある。その責任はこの命をもって――……」
「そんな無責任なことを言うな」

 鋭く言葉をぶつけたのはディオンだ。
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