冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ディオン様……」
初めてだった。
いつだって凛々しく背筋を伸ばしているディオンの弱々しい表情は。
そして、その胸の内を口にすることができず、頑として威厳を保とうとしている脆さが、フィリーナには伝わってきた。
次期国王となる高貴な方の何を自分が知っているわけではないけれど、何事にも動じない姿とはかけ離れた人間味のある弱さが、簡単にフィリーナの手を伸ばさせる。
「ディオン様……お辛いときは、辛いと言っていいのですよ?」
フィリーナを囲う影の中で、温かな頬を小さな掌でそっと包む。
小さな掌に素直に身を預けてくれるディオンに、いたたまれない庇護本能が噴き出した。
たかが使用人の自分なんかにでも、心を預けるようにすり寄ってくれているのだと思うと、胸は愛しさでいっぱいになる。
「大丈夫だ。この手があれば、私は立っていられる」
「ディオン様……」
弱音を垣間見せながらも、安堵を含めたような溜め息に、胸がぐっと締めつけられる。
初めてだった。
いつだって凛々しく背筋を伸ばしているディオンの弱々しい表情は。
そして、その胸の内を口にすることができず、頑として威厳を保とうとしている脆さが、フィリーナには伝わってきた。
次期国王となる高貴な方の何を自分が知っているわけではないけれど、何事にも動じない姿とはかけ離れた人間味のある弱さが、簡単にフィリーナの手を伸ばさせる。
「ディオン様……お辛いときは、辛いと言っていいのですよ?」
フィリーナを囲う影の中で、温かな頬を小さな掌でそっと包む。
小さな掌に素直に身を預けてくれるディオンに、いたたまれない庇護本能が噴き出した。
たかが使用人の自分なんかにでも、心を預けるようにすり寄ってくれているのだと思うと、胸は愛しさでいっぱいになる。
「大丈夫だ。この手があれば、私は立っていられる」
「ディオン様……」
弱音を垣間見せながらも、安堵を含めたような溜め息に、胸がぐっと締めつけられる。