冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「わたくしは、ディオン様をおひとりになどいたしません……っ!!」

 ひとりで何でも抱え込み、解決しようとする漆黒の瞳に、フィリーナはありったけの思いをぶつける。

「わたくしを頼ってはくださらないのですか?
 心の支えになるとおっしゃってくださったのは、その場限りの偽りだったのですか?
 ディオン様がそうおっしゃってくださったからこそ、わたくしはディオン様を陰ながらにでもお支えしようと思って……っ」
「フィリーナ……」
「例えお国のためにレティシア様とご結婚なさろうと、ディオン様がお守りになりたいこの国と、ディオン様のためになるのなら、わたくしはディオン様への想いを封じる覚悟くらい、いくらでも――……っ……」

 次に話を遮ったのは、ディオンの力強い腕。
 さきほどの弱々しい抱き方ではない強さが、フィリーナを包み込んだ。

「私への、想い……?」
「え……っ?」
「フィリーナ、君は、私を想ってくれていたのか?」
「あ、あの、そ、それは……」
「グレイスを、好いていたのでは、なかったのか?」
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