冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 澄んだ声はわざと耳を舐るように吹きかけられる。
 囁く言葉の吐息に、首筋が震える。
 たちまちのうちに胸ははちきれんばかりにときめきに溢れ、涙に濡れていた頬が熱く火照った。

「どういうことなのだ……」
「あ、の……」
「フィリーナ」

 強く腰を引き寄せられ、ますますディオンとの密着度が高まる。
 混乱し始める頭を落ち着けようと息を吸うと、ディオンのまとう薔薇の香りが胸を満たして、逆に鼓動が速度を上げてしまった。

 ――心が、ディオン様でいっぱいだ。
 遠く手の届くはずのない存在だったお方なのに。
 グレイス様と比べて、近寄りがたい方だった。
 お話しするなんてもってのほか。
 常にお国のことを考えられていて、少し冷たさすら感じていたのに――……
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