冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 まるで元から形を合わせていたかのように、自然と重なる口唇。
 たぎっていた身体中の熱は、すべて二人の心を中心に集まってくるよう。
 お互いの身体を抱き寄せても、もっと近くに行きたいと想いが膨らみ続ける。
 口唇を割って、ディオンの熱がフィリーナの心を心臓ごと引きずり出そうとする。
 注ぎ込まれるの想いが大きすぎて、熱をくべられる喉が嬉しさに喘いだ。

 息をつぐ間も与えられず、咥内を貪るディオンは、フィリーナをしっかりと抱いたまま、エプロンの紐をほどく。
 はっとして目を開けると、漆黒の瞳が余裕なく見つめていた。
 胸が容赦なく弾けさせられる。
 足元から崩れそうなフィリーナを、ディオンは軽々と抱き上げた。
 ようやく呼吸を取り戻し、息を上げたままディオンの肩に掴まる。

「フィリーナ」
「はい……」

 寝台まで運ばれ、そっと柔らかな上に下ろされる。
 横たえられた身体がわずかに沈むのは、ディオンが寝台に膝をついてきたから。
 見上げるフィリーナに影を作りながら、ディオンは囲うように手をついた。
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