冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「兄さんが考えて出した結論だ。それに、僕にとってはいい話でしかない」
「ありがとう、グレイス。この国のことは、頼んだぞ」

 ぐっと気持ちを堪えるのは、フィリーナも従者の二人と同じだ。
 国王もあのとき言っていた。
 ディオンのこれまでの実績を考えれば、誰だって異論のない即位だったのだ。

 でも……

 昨夜のとても苦しそうな瞳を見てしまっては、強く引き留めることはできない。

「明朝、陽が昇る前に忍んでヴィエンツェヘ出向く。レティシアに話をして、グレイスもあちらの現状をその目で見ておいた方がいい」

 それに、フィリーナはディオンの生涯の支えになると決めた。
 ディオンに自分のすべてを捧げると誓ったのだから。



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