冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ディ、ディオン様……っ」

 慌てて顔を振りほどくと、かすかにしゅんとした漆黒の瞳に酷い罪悪感を覚える。

「そういうのは他所でやれと言ったろう」
「先日こうやって見せつけていたのはお前の方だったじゃないか」
「さあ、どうだったかな」

 呆れた顔をしたグレイスは、白馬を速めてフィリーナ達を追い抜いて行ってしまった。

「嫌だったか?」
「えっ、嫌だったのではなくっ、あの、だってグレイス様が……」

 落ち込んだ声に振り返ると、漆黒の瞳がフィリーナを見つめて傾いてきた。
 ディオンの思惑が伝わってきて、心臓が大きな鼓動を打つ。
 グレイスに囃されて火照った頬はさらに過熱する。
 予想通りに、熱い口づけが降ってきた。
 馬の揺れで落ちないように腹部に回された掌。
 ぐっと引き寄せられると、口唇の交わりが少し深くなった。


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