冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*


 案内をする人もいないまま、一行は王宮の造りを知っているダウリスに続く。
 通ってくる通路は、薄っすらと埃が積もり、窓は見るからに汚れていた。
 フィリーナは掃きたい、拭きたいと職業柄の思いをくすぶらせながら辿り着いたのは、王宮の中でも一番立派に見える大きな扉の前。
 二度だけ扉を叩いたダウリスは、返事をもらわないまま不躾にもそこを両手で押し開いた。
 
 思っていたよりもわりとこじんまりとした広間の中央に、いつも見ている物よりずいぶん小ぶりなテーブルがある。
 けれど、目を見開くほど驚いたのは、そのテーブルに持て余すほどの料理が並んでいたからだ。

 ――どうしてここにはこんなに料理が……
 町の人達は、その日食べるものにも困っていると聞いたのに。

「だ、誰だっ! 無礼な! 食事中だぞ!」

 いくつもの皿が並んだその奥で、金髪の美しい美女の細い腰を抱いたヴィエンツェ国国王が、口元を汚して叫んだ。
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